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卒業 [重松 清の本]

卒業

卒業

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/02/20
  • メディア: 単行本
※内容に触れています。未読のかたはご注意ください。
 

出かける予定があったので電車の中で読もうと借りたが、待てずに家で読むことに。一晩で読んだ。

4作のうちしょっぱなから号泣。電車で読まなくて良かった

「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った

親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた~

悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を

描いた四編。著者の新たなる原点。(裏表紙より)

表題作を含む四編はいずれも何かからの「卒業」がテーマだ。

親からの呪縛、深い後悔などそれぞれ主人公は心に問題を抱え、葛藤し、「卒業」していく。

圧巻は最初の一編目「まゆみのマーチ」だった。

正直、四編の中で胸をうたれたのはこの作品だけといってよい。少なくとも私にとっては、だ。

母親が死ぬ。その時を迎えて、息子と娘は久々に会う。そして回想する。

幼かった頃の日々を、家族で過ごした日々を、母の深い愛情を・・・・。

 

幸司(兄)は母にとって自慢の息子で、エリートコースを進む。しかし、今、自分の息子が引きこもりに

なってしまった。初めて挫折を感じている。

まゆみ(妹)は幼い頃から陽気で歌が好きな子だったが、集団生活にうまくなじめず、

学校に行けなくなってしまった経験をしていた。


母親は体が動かない、歩けない、という拒否反応をおこしてしまっている娘を無理に連れて行ったり、

また叱咤激励するのではなく、どこまでも寄り添い、深い深い愛情で支え、立ち直らせた。

この母親の愛情表現がとても素敵です。無償の「愛」。「好き」という気持ち。

これが子どもにとって絶大な力になるということを改めて確認させてもらいました。

やっぱり当たり前で通じてると思っても、口に出していわないといけませんね。

好き、好き、好っき!・・・・(号泣)

父親が「まゆみは、ふつうの学校じゃ面倒見てもらえん子ぉかもしれんのう・・・」

とつぶやいたときも「まゆみは、ええ子です。うちの、かわいい子です。あんたのかわいい娘で、

幸ちゃんのかわいい妹です」ときっぱり返した母。子どもの個性を認め、「あなたはあなたなのよ」

という信念をもっていたからこそまゆみは自身の存在を否定せずにこられたのでしょう。

どんな時も子どもを受け止め、愛した姿が本人に届いたんだなぁと思いました。

 


「あおげば尊し」

ガンにおかされて余命いくばくもないもと教師の父親を在宅で看取る

家族の話。息子は自身も教師だが、厳しい教師だった父を冷ややかな目でみていた。

父は教え子の結婚式に呼ばれたことはない。年賀状でさえ、教え子の誰からも来ない。

厳しくて、寂しい教師・・・。


この話で私は死について考えました。

死ぬことは怖くないな、と。

生きることのほうがずっとずっと苦しいじゃないか、と。

私は死を宣告されてから、死を迎えるまで苦しみながら生きる覚悟があるだろうか。

そして身近な人がそうなったとき、受け止めてあげる覚悟があるだろうか・・・

 

「卒業」

これは重松さん自身の体験に基づいて書かれたものでしょう。

前に読んだエッセイで親友を自殺で亡くしていることを告白していました。

このことは重松さんにとってものすごく衝撃で、きっとなかなか消せない「何故」という気持ちが

うずまいていたんだろうと思います。重松さんは「書く」ことでつらい記憶を「卒業」しようとし、

芸術家や音楽家、映画監督などは自身の才能でまた苦しい体験を「卒業」させることが

できます。そういう人がなんだかうらやましい。

凡人は苦しみを胸に悶々としながら生きるしかないんだろうか・・・


 

「追伸」

この話はあまり好きじゃない。なぜなら私が利己的な人間だからだ。

 

幼い頃母親を病気で亡くした主人公敬一は、母親のことが忘れられず、後妻のハルさんに

心を開くことができないで大人になった。母の形見である日記を心の支えに・・・


重松さんの作品では死にゆく人物が物分り良すぎる。

「その日のまえに」でも妻が夫に「忘れてもいいよ」と手紙を遺していたし。

私は夫にも子どもにも自分のことを忘れてほしくない・・・絶対に。

だからこの話のように息子がいつまでも死んだ母を想い、後妻を母と呼ばず、認めないでいたのは

ちっとも悪いことだと思わないし、自分がこの息子の母だったら心底嬉しいんじゃないかな。

ハルさんがどういう気持ちで敬一に接していたのか、私には理解できないし、無理にお母さんと

呼ばせるなんて必要はなかったんじゃないかと思う。ハルさんにとっては前妻の忘れ形見で

ある敬一を、本当に自分の息子と同じように愛せていたのだろうかとどうしても疑ってしまうし・・・

私はずっとずっとずーっと愛する者たちの心の中に残っていたいし、生きていたい。

でもそのことで愛する者たちが苦しむのだろうか・・・・

だとしたら私はやっぱり利己的なのかしら・・・そんなことを考えた。

 

 

全編、いろいろ考えさせられますが、しょっぱなの「まゆみのマーチ」があまりにもヒットしたため、

私には他は霞んでしまった感があります。

でもそれぞれの立場が違えば、読む印象も違ってくると思うのでどの作品も人によって心の

琴線にふれる部分がきっとあるでしょう。

くれぐれも電車の中で読まないようにご注意ください(笑)

 


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コメント 2

phin

ノリさん、こんにちは。お時間あったのでお邪魔しました(^^)
電車の中で読まないようにって言うのは正しいです。大賛成です。泣いている顔を他人に見られたくないのなら、人の目のあるところで絶対に今作は読むべきではない。家で読んだのが大正解だと思います。
by phin (2007-05-03 21:27) 

ノリ

phinさん、いらしていただきありがとうございます。
重松作品、まだ未読たくさんあります。
phinさんのブログも参考にさせていただきたいと思います。
by ノリ (2007-05-14 11:59) 

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